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 ダリル・ウィー (BLOUIN ARTINFO  アジア版  編集長 )

     出典:『VOCA 展 2014 現代美術の展望―新しい平面の作家たち』カタログ

小川晴輝のフランティック・ギャラリーの初個展「イライラさせられる形象」(2009年)は、当時24才のアーティストの印象深いデビューだった。

その作品は、くねくねした線やシミやシュッシュッと音のするような動きが密に絡みあう塊と、慎重に配置されぽっかり口を開けた間隙が

合わさった、卓越した技巧の自己言及的"画中画"である。ただし作中の動物たちの形象は、神経質に震える小川のタッチをエモーショナルに伝えて

効果があるとはいえ、作品そのものが繰り広げる重要な課題とのずれも残した。2度目の個展「集積の拡散」(2013年)では、小川はそれら形象の偽りの支えを捨てることで、新作に集中と強度をももたらした。ここでは、形態と概念への関心が増幅し圧倒的にスケールを帯び、実際にも比喩としても

カンヴァスの抑圧的な制約を越えて溢れ出している。絵具の帯は悶え、捩れ、互いに反転しあい、不協和な相互作用のなかで、図と地だけでなく

メディアと支持体の見分けもつかない。小川にとってカンヴァスとは、フラットであることが同語反復的に肯定される平面の支持体ではなく、

ダイナミックかつ柔軟な出発点なのだ――油絵具と水性アルキド樹脂絵具を空間へと駆り立てる跳躍台のようなものである。

ペインタリーな支持体とはどういうものか、小川は一つの構想だけから制作することに満足せず、微妙に色の違うさまざまなオフホワイトの

カンヴァスを用いはじめ、熱狂的に押しあいへしあいするその空間を見る側の認識をさらに複雑化、多様化させた。そこでは筆触、質感、色、形式化

すべてが、ペインタリーな"キューブ"と小川が呼ぶ構造のなかで等価な重要性を帯びているのだ。

この作家にとって絵画とは、言うまでもなく、表面が皮下の集積の最上部のみを見せる三次元的なボリュームである――表面化のメカニカルな構造物

と隠された枠組みはいわば、いずれ解明される具体的装置なのだ。これは小川がこれまでに数年間生産的な方法で追求してきたスリリングな矛盾で

ある。つまり、絵画のボリュームは絵具で表現されており、絵具の三次元的物質性は、私たちが彼のカンヴァス上に見る"絵"を保証すると同時に超越

するものなのだから。

 

 

 ロディオン・トロフィムチェンコ(Frantic Gallery ディレクター)

 出典:Frantic gallery  (https://www.frantic.jp/ja/artist/artist-ogawa.html

 

「アルベルティの絵画モデル」は、絵画をもうひとつの現実へと開かれた窓であるとの認識を提唱する。近代美術は絵画を平面として見るべきことを強調してきた。小川晴輝という日本の作家はこの絵画の空間性を根底から再考しようとしている。彼は絵画の素地を、相互に作用し合う要素を放出する物質であると考えている。発せられた要素は絵画および「外」の空間へと多方向に広がり、空間を占拠しながら常に変化し続ける。矛盾するようだが、このときに絵画的要素のもつボリューム、影、遠近法は保持されている。小川が作り出すのはハイパーダイナミックな三次元の抽象である。非具象的な対象はカンヴァスの前へ出て、周囲を回り、そしてまたカンヴァスの中へと戻って、物理的存在のイリュージョンを確保する。

近作では「呼応」「共鳴」という概念をめぐってさらに絵画の根本的構造を展開させ、色やテクスチャーが異なるカンヴァスを描かれた視覚的次元に取り込もうとする。例えば、「呼応 Ⅳ/Correlation IV」は黒綿布(左側)と麻(右側)のカンヴァスで構成されている。2種類のカンヴァスは相互に

作用し合い、画面に描かれた平面と半球体を融合してしまう。一見、鑑賞者に最も近い面は描かれた影やレイヤーの効果によって覆われているように見えるが、実際のそれは物理的なカンヴァスの面にほかならないのである。

また、小川は作品制作にあたって新たなメディアを実践し、色づけしたレジンや異なるテクスチャー、幾何学的物質などを用いて実験的な取り組みを行っている。そうして作られる彼の作品はまるで込み入った迷路を露わにするような性質を帯び、「平面」ではなく「立体」としての絵画が

生まれる。「Roentgenpainting」には多面的な仕掛けがある。正面からは絵画的な様相の複雑なネットワークに鑑賞者を迷い込ませ、側面からは

絵画構造のレイヤーをさらけ出し、後面からは作品の要素を複雑に結び合わせ、またもや鑑賞者の目を惑わせるのである「Roentgenpainting」は、

通常では目に写らない「oil on canvas」の構造を一瞬にして暴くレントゲン装置のように機能する。

こうして、小川の作品は「より近い」―「より遠い」、「その下」―「その上」、「出てくる」―「戻ってくる」を永遠に行き来するパラドックスを次から次へと増大させていく。これらの様相を無限に戯れさせながら、彼の絵画―立体は絶え間なく自らを他の何かへ、そしてまた他の何かへと

再定義し、変換し、再構成し続けるのである。