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「表現全般について」
「レイヤー構造について」
私の作品にはいろいろな素材や質感の支持体や技法がありますが、私が研究しているのはそのような要素のレイヤー構造ではありません。
というのもレイヤーは「断絶の重なり」であり、私はその断絶した重なりを繋げそれを超えた関係性を研究しているからです。
具体的には、絵画の要素として支持体や絵具などの物質は「実」であり、描かれるもの(イリュージョン性、空間性)は「虚」といっていいと思います。
描かれるもの「虚」は描き込むとそれが「実」の領域へ近づきます。
反対に支持体や絵具などの物体や物質「実」は描かれることでイリュージョン性(空間性)を伴い「虚」へ近づきます。
つまり、お互いがお互いの領域へ向かい交わることで一体となり融合する関係が生まれます。
「支持体の側面ついて」
支持体は平面として認識することが一般的だと思いますが、私は立体(物体)と認識しています。
支持体は当然ですが厚みがある三次元の物体です。
表現方法にもよりますが私の場合はこの厚み、支持体の側面を存在しないものとして考える平面の付属物のような捉え方に昔から疑問が強くありました。
そもそも木枠やパネルなどに布を張るときその布は正面と側面で分断されているわけではなく1つのものです。
また正面と側面の間にはどちらとも言えない「折り目」があります。
この折り目はどこからが正面でどこからが側面になるのでしょうか。
そのようなことがあるので私は支持体の側面を含めた表現をしています。
しかし、ただ側面を強調することは絵画をより物質的にするだけでそのような表現は既にいろいろあります。
私がやりたいことはその物質的に強調された支持体に対して、描かれるものやイリュージョン性という「虚」の要素との境界を繋ぎながら私なりにさらにその両者の境界を超える関係性を探っています。
また、側面まで含めることは作品を正面から見るだけではなく見る角度が変化することも要素として現れます。
私たちは展示会場で作品を見るために移動するので画面を見る角度や距離は変わります。
また、テレビやスマートフォンのディスプレイなどを見るときも常に正面からしか見ないという訳ではありません。
視点が移動することや角度が変わることはごく自然なことなのです。
私の表現の場合そのことは無視できません。
「支持体の分割とその隙間について」
近年の作品は支持体を分割したものを組み合わせて使っています。
これは2014年に日本の東京の上野森美術館で開催された「VOCA展」という展示で「搬入の際に作品が大きい場合、支持体を2つに分割しなければならない」という条件があったことがきっかけです。
私は支持体を分割したときにできる隙間に必然性がないことが非常に気になりました。
そこで「分割するのならば左右で別の素材の布を張り、お互いの関係性が完全に分断したところからそれを繋げ融合させる関係を描こう」と考え、今に至ります。
1枚の支持体で描いていた頃はそれ自体が安定しているので、画面上で分断された関係を起こすことからスタートする必要がありました。
また、支持体と支持体の隙間の陰影を部分によって輪郭線にみせたり、影を描き足すことで空間性を強調させたり、面の変わり目(稜線)として関係性を変化させていきます。
近年は支持体を4つに分割をして布の種類を増やしたり支持体の隙間の影をより積極的に取り込んでいます。
最初は手探りで始めましたが今はかなりの理解が出来てきている実感があります。
「布地(支持体の素材)について」
また、私は2009年頃から布地の部分を残しながら描いています。
作品保護のため最低限の処理はしますができるだけ布地そのものが見えるようにしています。
海外での反応で「布地が残っていて何も描かれていない」という話を聞いたことがありますが、これは「0(ゼロ)」の概念に似ていると思います。
「0(ゼロ)」の概念が無いものとするか、「0」という「無いものが有る」と概念を認識するかの違いに思えます。
それは「余白が余っている」のか「余白と言っているが実はそもそも余っているのではなく残している。もう少し私の言い方にするならば支持体を尊重している」かの違いと言い換えてもいいと思います。
布地を残して描くことで一見コラージュをしたような調和しながらも反発し合う強い関係が生まれます。
さらにある支持体の布地の色を別の支持体の布地に描くことで繋がったように見せ、「虚」と「実」を混在させながら境界を行き来させます。
質感の違いをより強調するために支持体に木材や金属を使用したシリーズもあります。
「Roentgenpainting(レントゲンペインティング)」など絵画以外の作品について」
私は絵画以外に、立体作品や少ないですがインスタレーションなどもします。
共通することは「絵画表現を別のメディアを通してすること」です。
「Roentgenpainting」などの立体シリーズの出発点は「絵画をプロセスも含めて360°見れたらどのように見えるか?」これが出発点でした。
絵画の空間性は実際に存在しないものや空間を描くこと、つまり「嘘をつくこと」で基本的に何でもできます。
しかし、それを立体で表現する場合そうはいきません。
「Roentgenpainting」の正面は完成した絵画の正面の状態を表し、側面はその過程を現しています。
樹脂を層にして流し込んでいるので側面を見るとその経過が見えるわけです。
立体作品はこのような絵画構造の分析的な視点として制作をしています。
立体作品はより物質的な視点での絵画表現とするならばインスタレーションはより空間的な表現です。
物体は空間の中に存在しています。
当然絵画も同じです。
インスタレーションは現実の空間と絵画的な表現にどのような関係性を与えられるか、糸を線の要素として扱いながら探っています。