立体作品について。About my three-dimensional works.


Roentgenpainting 54 , 2020, mixed media , H15.4×W15.3×D15.6cm(H6.1×W6×D6.1 in), private collection, Japan.

 

 まず、私が立体作品を始めた理由は「絵画を360°全ての角度から見るとどうなるか?」という疑問からでした。

また、その立体作品を制作することで、私の絵画が大きく変化しました。

 

 先に絵画の話を少しします。2010年の春に制作した絵画作品の「無題」があります。

この作品はそれまで描いた絵画の集大成の作品で、その当時のプロセスの中で疑問になっていたことを、過去の作品で全て消化してから描いた、自分で意図的に完成度を最大限に意識した作品です。

結果として、納得のいく作品になりました。

 

 

 

無題 / Untitled , 2010, oil, alkyd on canvas, 162×162 cm (63.8×63.8 in), private collection, Japan.

 

 

 それと同時に今のプロセスに限界を感じました。

具体的には、「これ以上は、描いた内容の『圧』に対して支持体が負けてしまうだろう」ということが結論でした。

「支持体が負ける」というのは、言い換えると「描いた内容に支持体が飲み込まれ、物質的に薄っぺらくなり、それにより描いた内容が悪い意味でより空虚になり、一つの作品としてのバランスが崩れる」という意味合いです。

なかなかこのニュアンスが伝わるか分からないのですが、私の作品は支持体や絵具などの「実」と描かれるもの「虚」のバランスが非常に重要です。

この作品を描いたことで、ポジティブな意味で今まで使用していた支持体やプロセスの限界が完全に見えてしまいました。

そこで、描いた内容(虚)の力が強くなっている今、支持体(実)をより物質的なアプローチである立体作品を制作することで、自分の絵画の新たな方向を模索しました。

 ちなみにですが、私が自分の立体作品を「彫刻」と呼ばない理由は、上記の通り飽くまでも「絵画の立体的なアプローチだから」です。

また、その前の年に大学の授業で木や金属など使用した作品を制作する実習があったことも、スムーズに立体作品の制作が出来た理由の1つになります。

 

 

最初期の試作した立体作品

 

 

 当然ですが、絵画と立体では大きな違いがいろいろあります。

一番大きい違いは、絵画であれば奥行きや物を描くなど、虚構がいくらでも作れますが立体はそうはいきません。

物として存在するので、「絵画のような奥行きなどの虚構をどう実際に起こすか」という問題が出てきます。(詳しくはもう少し後に書きます)

また、絵画を360°どこからでも見れるような作品にしたかったので必然的に透明樹脂を使ったものになりました。

立体作品の最初期は上の写真の通り、透明な箱に樹脂を流しこんだ試作を作ってみましたが、箱が絵画のフレーム(額)のような機能になり、立体作品の物質性が弱まることがわかりました。

それからは、透明な箱を型にして後から中身を取り出すという方法になりました。

 

 


立体作品の制作過程    

 

概念彫刻 / Conceptual Sculpture , 2010, mixed media, H9.1×W9.1×D9.1 cm (H3.6×W3.6×D3.6 in)

 

立体ドローイング Ⅰ / Three-dimensional Drawing Ⅰ, 2010, mixed media, H9.5×W9.5×D9.5 cm (H3.7×W3.7×D3.7 in)

 

立体ドローイング Ⅱ / Three-dimensional Drawing Ⅱ, 2010, mixed media, H9.9×W9.9×D9.9 cm (H3.9×W3.9×D3.9 in)

 


初期の立体作品

 

 

 2014年に立体作品を約40個制作してほしいという大きな依頼があり、その作品を中心に個展をすることになりました。

その中でRoentgenpainting(レントゲン ペインティング)」という言葉が浮かんできました。

元々絵画を360°どこからでも見れるようにアプローチした立体作品ですが、私の作品は基本的に中身が透けて見えるものです。

それが絵画のレントゲン写真のように感じられ、その後の透明樹脂の作品は基本期にこの名前をつけています。

また、透明樹脂が透けて見えることで立体の正面、側面、裏側で何が見えるかが大きく変わります。

 

 まず、正面は絵画視点では「完成した平面の状態」です。透明樹脂を流し込んだ最後の表面がそれになります。

次に、側面は「時間の経過=制作の過程」が見えます。これは、絵画では最終的に見ることが出来ないものです。

また、透明樹脂を数回に分けて流し込むことで屈折の仕方が変化し、1つ1つの層がより分かれて見えます。

最後に裏側ですが、これも絵画では見ることが出来ません。

絵画でも支持体の裏側は自体は見ることが出来ますが、描いてきた過程を逆算した状態で見ることは出来ません。

このように「Roentgenpainting」シリーズは見る面によって様々な変化します。

 

 

Roentgenpainting 53 , 2020, mixed media , H15.3×W15.3×D15.5cm(H6×W6×D6.1 in), private collection, Japan.

 

 

 繰り返しになりますが、私の立体作品は絵画を立体としたときのアプローチになります。

その中で絵画の大きな特徴である虚構、つまり空間性(奥行き)を立体作品で起こすことが重要になります。

その具体的なアプローチの1つに、透明樹脂をレンズ状に抉る方法があります。

透明樹脂をレンズ状に抉った部分の中の像は歪み、独特の空間性を帯びます。

また、正面から見ると抉れた部分の奥行きは消え、輪郭が円のように平面に見えます。

これに関しては、一番最初の写真の「Roentgenpainting 54」や下の写真「Roentgenpainting 60」が分かりやすいと思います。

この他にも鏡を透明樹脂の中に入れて光を反射させることで、着色した樹脂の色を鏡に映し出したり、色彩が混ざり合うようなこともしています。

 

 

 

Roentgenpainting 60 , 2020, mixed media , H20.2×W20.2×D6.3cm(H8×W8×D2.5 in), private collection, Japan.

 

Roentgenpainting 7 , 2014, mixed media,  H7.7xW7.7xD7.3 cm(H3xW3xD2.9 in), private collection, Germany.

 

 

 

 また、透明樹脂の表面は文字通り透明になるようにしっかり磨いていますが、部分的に荒く削る(マットにする)ことで光を表面で反射させ、中のものが見えなくなるようにした作品もあります。

表面をマットにすることに関しては、下の写真の「Roentgenpainting 47 」などが分かりやすいです。

正面を見るとマーク・ロスコのような複雑な色彩が浮かび上がります。

側面から見ると、はっきり着色された透明樹脂がいろいろな角度で固められていることがわかります。

着色された透明樹脂を様々な角度で固めると、樹脂の量が変化する=色が変化します。

それにより自然な色彩の変化が起きる訳ですが、絵画であればそれは絵具の量であり、筆の動かし方やその回数になります。

その状態で、光を透過させないように表面をマットにすることで、その光を留まらせ、表面上で色彩を混ざり合わせます。

 

 

Roentgenpainting 47 , 2014, 9.7×9.7×4.4 cm(H3.8×W3.8×D1.7 in), private collection, Belgium.

 

Roentgenpainting 13 , 2014, mixed media,  H8.9xW8.9xD4.5 cm(H3.5xW3.5xD1.8 in), private collection, Germany.

 

Roentgenpainting 59 , 2020, mixed media , H20.2×W20.1×D6cm(H8×W7.9×D2.4 in), private collection, Japan.

 


 

 このようなことで、私の絵画の新しい可能性を探る上で、私の立体作品は重要なシリーズとなっています。

初めての立体作品を制作後、私は木枠の厚みを厚くしてみたり、絵画用のキャンバスではなく、いろいろな布地に描き出したりしました。

作品の写真も左右の側面が見える状態で撮影し始めました。

立体作品を研究することで、支持体の物質性を改めて認識できたことが今の作品に繋がっています。

 

 


キャンバスの裏地に描き、左右の側面が見えるように撮影し始めた作品

集積のリズム / The Accumulating Rhythm , 2010, ink, watercolor, oil, alkyd on canvas, 130×130 cm (51.2×51.2 in)

 

 

立体 5 / Object #5, 2011, mixed media, H9.5×W9.5×D9.9 cm (H3.7×W3.7×D3.9 in)

 

Roentgenpainting 58 , 2020, mixed media , H19.6×W19.6×D6cm(H7.7×W7.7×D2.4 in), private collection, Japan.

 


Roentgenpainting 57 , 2020, mixed media ,

H15.2×W15.2×D15.4cm(H6×W6×D6.1 in), private collection, Japan.

 

Roentgenpainting 63 , 2020, mixed media ,

H20×W20.4×D7.7cm(H7.9×W8×D3 in)

 

 


合板の立方体を使った2021年の作品

 

 

 最後に、立体作品の中には透明樹脂を使わない作品もあります。

これに関しては「Roentgenpainting 」シリーズの意図とは少し違い、木など「物質感が強い素材に絵画的な空間性を与える」というアプローチで進めています。